常にカバンの中に入れて持ち歩いているもの
私が普段仕事で使っているカバンの中には、過去の「あること」を忘れないために常に持ち歩いているものがあります。
それは「解雇予告通知書」。会社が社員を解雇する場合に、労働基準法第20条では「少くとも三十日前にその予告をしなければならない」と定められています。この書類はサラリーマン時代に作成し実際に利用したもので、持ち歩いているのは氏名をブランクにしたもの。いろいろと思うことがあり、以降常にクリアファイルに挟んでカバンに入れています。
この書類を作ったのは2012年の9月、当時勤務していた会社で大手取引先からの受注が大幅に減少し、単年度の赤字が確実になった時期でした。こういった場合、一般的に企業は当然のことですが様々な経費の削減手段を取ることになりますが、経営層から人事担当者の私に下った指示、それは全社員を対象とした評価表の作成でした。勤怠や業務評価、携わっている案件状況や有給休暇の取得率、残業時間数などが報告対象でした。それが来るべき人員整理の判断基準となることは明白でしたが、仮に企業が業績不振となり、実際に人員整理を行うには満たすべき要件があります。よく言われる以下に記した「整理解雇の4要件」です。
➀人員削減の必要性
②解雇回避措置の相当性
③人選の合理性
④手続の相当性
例えば②では解雇を避けるために必要な回避措置を取ることが求められています。固定経費の削減や、時間外勤務の抑制、新規採用の停止、定期昇給や賞与のカットなどです。そしていよいよ解雇が必要となった場合であっても、まずは退職勧奨を行ったり、希望退職者を募集するという手順が必要です。こういった要件や手順についても評価報告書と一緒に提出したのですが、残念ながらその資料が参考にされることはありませんでした。
結局、評価報告書の中からリストアップされた数名は、日頃から経営陣の評価が低かった社員ばかり。そしてなんら回避措置を取ることなく真っ先に実施された指名解雇でした。一方でごく一部の社員には賞与が支給されるという矛盾もありました。私は大阪勤務者で指名解雇となった人、ひとりひとりに解雇予告通知を渡すという「仕事」を命ぜらたのですが、全員が根耳に水のこと。この紙を目の前に置いたときの社員の顔は今でも忘れられません。
私が持ち歩いているのは、このときの間違いが顧問先企業さまで絶対に起こらないようにしたいため。またそうならないようにしっかりバックアップさせていただきたいとの思いから。少なくとも私の顧問先企業さまは、「社員を大事にする」企業であってほしいと思っています。