労災保険料の保険料率が引き下げられることになりそうです
企業や労働者が支払っている保険料と言えば、大きく分けると社会保険料と労働保険料の2つ。社会保険料は更に、厚生年金保険料と健康保険料、40歳以上のみが負担する介護保険料の3つに、労働保険料は雇用保険料と労災保険料の2つにそれぞれ分類されます。もっとも労災保険料は、全額を事業主が負担するため、「保険料が下がる」といっても、残念ながらサラリーパーソンの皆さんの給与明細に直接影響することはありません。
労働保険料は、一部の例外を除いて保険年度内(4月から翌年3月)に支払った賃金総額に対して雇用保険料率、労災保険料率を乗じて求められます。それぞれの保険料率は業種によって、雇用保険料率は3区分、労災保険料率は一般の事業では54の区分に分かれています。労災保険料率は、その業種毎の「事故の発生リスク」によって細分化され、例えば、金融・保険・出版といった業種では1000分の2.5、金属鉱業・石炭鉱業は1000分の88といった具合です。
料率がどの程度引き下げられるかは明示されていませんが、保険料総額では1,300億円減とのこと。ちなみに労災保険料の総額がどれくらいか想像できますか。平成27年度の数字にはなりますが、金融庁の労働保険特別会計の資料を見ると、収入が1兆1,269億円、支出が1兆615億円となっています。剰余金も相当あることから引き下げで制度自体にすぐ何か支障が出るということはなさそうです。
今年の4月には、もう一つの労働保険である雇用保険料率が引き下げられていますが、今回の労災保険料率の引き下げと併せて、合計3,000億円程度の企業負担が減ることになります。実はこれは一方の負担増と完全にバーターとなる金額です。選挙公約でもあり、アベノミクスの目玉政策の一つでもある「待機児童対策」の財源として政府が企業に負担を求めた金額が3,000億円、あまりに数字が合い過ぎて、少しひねくれた見方をすれば、初めから筋書があった「出来レース」にも見えてしまいます。
もちろん、企業や経営者の立場からすれば下がるに越したことはないのですが、一個人の意見として、労働保険料にも従業員数や利益に応じた「規模割」のような料率を設け、これで臨機応変に対応し、本来の料率は一時の政策の具として安易に左右されないようにしておくのが保険財政の安定にはよいのではと考えます。昨今、大手企業では内部留保で膨大な資金をプールしています。株主への配当や、設備投資といったことがその理由のようですが、大きな利益を上げている大企業に少々多めに負担をしてもらい、その分、中小企業の負担を軽減するというのはどうでしょうか。
※写真は京都御所にて(京都市上京区)
2017年12月04日 06:07