労使協定の数字だけでは判断できません
厚生労働省が過労死ラインとしている残業時間は、発症前2~6ヶ月平均で月80時間超、または直近1ヶ月で100時間超。今回の調査結果では、全体の7割を超える企業で1ヶ月80時間を超える協定時間を定めていたとのこと。100時間を超える企業も3割近くに上っています。
労働者に法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超える労働をさせる場合には、就業規則と異なり、仮に労働者が一人でも労使協定を締結して労働基準監督署に届け出る必要があります。いわゆる「36協定」と呼ばれるものですが、では「この届出をすれば上限はないのか」と言えば、そうではありません。この協定においても、一般の労働者の場合には、1か月45時間・年間360時間という制限があります。しかし、ここには「特別条項」という規定があります。
「特別条項」とは、「あらかじめ特別の事情(臨時的なものに限る)が生じたときに限り」、限度時間を超えて労働させることができるというものです。別に「エスケープ条項」とも呼ばれていますが、 この規定を使うと、例えばあるゼネコンの労使協定「月150時間、年間1,170時間」ということも可能になります。特別条項の月の残業時間は年6回までという制限があるため、150時間×6回=900時間、残りの6か月間は月45時間として、45時間×6回=270時間、合計で1,170時間という具合です。特別条項の場合、限度時間を超える一定の時間の制限について、明確に定める基準がありません。よって、実質的には青天井とも言えます。今回の調査結果では、年間1,200時間という企業もあり、平均すれば毎月が過労死ラインと言えます。この36協定で定める時間、ここには法定休日に関する出勤時間は含まれていません。よって、休日勤務の時間を時間外労働に含めた場合、実際にはもっと長くなる可能性もあります。
一方で36協定は、業種特有の事情や、突発的な事故・トラブルに備えて、予め最大限で締結しているということもあります。そういった観点では、今回の調査結果が必ずしも実態ではないという面もあり、この時間だけで一概には判断はできないとも言えます。しかし過重労働の伏線であることも確かです。平成31年4月を目途に働き方改革の一環で、特例でも上限を「年間720時間」とする案が検討がされています。ただ、どんなに制限をかけても最も大事なことは、企業側の「安全配慮義務」の徹底ではないでしょうか。
※写真は六角堂(京都市中京区)
2017年12月05日 05:33