自然災害と外国人の不動産購入の影響
最近、嵯峨野のある名刹を訪れた時のことです。
ここは、江戸時代初期に結ばれた草庵が発祥とされ、非常に静かなたたずまいで有名な寺院です。嵯峨野の奥、民家の間の細い道を上った竹林の更にその奥にあり、紅葉シーズンには隠れスポットとも呼ばれています。今から30年以上前に、推理小説で有名な西村京太郎のトラベルミステリーでも取り上げられたこともあり、知る人ぞ知る「庵」と呼ぶにふさわしい、静けさの中にある寺院です。
私自身がここを訪れるのは約2年ぶり、閉門ギリギリに入ったため、我々以外に他に拝観客はおらず、とても静かな境内。本堂の縁側に座りゆっくり境内を見回すと、今までとはちょっと異なる違和感がありました。その一つは紅葉の枝ぶりが非常に弱く、薄く感じられたこと。もう一つは庵を囲む竹林の向こうに見える風景でした。そもそも見えるはずのない民家が見える違和感です。
そのナゾ、帰り際にその庵を管理している人から伺うことができました。一つ目の紅葉の枝ぶりが弱いのは、秋に関西を直撃した台風によって多くの枝が折れてしまったこと。本堂の茅葺はたまたま吹き替え工事が終わったばかりで助かったものの、もし吹き替え前の痛んだ状態であったら、吹き飛ばされ、本堂もどうなっていたかわからないほどの強風だったとのことでした。紅葉が元の姿に戻るまでには数年はかかるとのこと、台風の影響はまだまだ尾を引いています。そして二つ目の竹林の向こうに見える風景、これは竹林の密度が小さくなったこと。竹林の向こうには一般民家が建設中で、以前その民家の土地にも竹林があったことで、庵の竹林+隣接する民家の竹林が上手く重なり合っていました。ところが、持ち主が代わり、新しく建築するに当たり、その竹林を無くしてしまったために、密度が小さくなり、庵の縁側から隣家が見えるようになってしまったとのことでした。持ち主は中国人ということで話合いも上手く進まず、風情ある以前の竹林が亡くなってしまったと話されていました。
このあたり、「歴史的風土保存区域」に指定されているため、建築する際には事前に京都市に所定の手続きを行って許可を取っていることになります。法的に問題がないということなんでしょうが、従来の静かな佇まいが少し失われてしまったことに寂しさを感じました。ちょっと複雑な思いですね。