未払残業代はありませんか
今年、最も多く受けた相談は「残業代」に関することです。
法律では1日8時間・1週間40時間を超えれば、事業主には時間外手当(=残業手当)を支払う義務が発生します。変形労働時間制を導入することによって日々の凸凹を一定の範囲で平準化することはできるものの、それでも1週間・1カ月間・1年間の区切りで所定労働時間を超えた場合には残業手当の支払いが必要になります。
もし労働者や退職者から「未払いとなっている賃金を払ってください」と申し出があった場合、どこまで支払わなければならないか、事業主にとっては大きな問題です。残業手当の請求ができるのは支給日から2年間とされ、それを超えると時効となります(労働基準法第115条)。よって労働者や退職者からすればもし過去2年間に未払い賃金があれば、その支払を事業主に請求できるということになります。
話は少し変わります。私の顧問先ではありませんが、雑談の中でこんなことを言われたことがあります。
「会社として全く知らない、指示も何にもしていないところで勝手に残業をしていた。それでも支払わないといけないのか?」
こんなケース、意外に多いかもしれません。が、原則として支払い義務はあります。事業主には労働者の勤務時間を管理し、把握する義務があるため、「知らなかった」「残業の指示はしていない」という言い分は認められないというのが、厚生労働省のガイドラインや過去の多くの判例です。ただし、過去には労働者が起こした裁判で、残業代の支払いが認められなかったケースもあります。それは会社が残業を禁止する業務命令なり、上司からの指示があり、与えられた業務量も時間内に遂行できる範囲内であったにもかかわらず、労働者がこれに反して残業をしたといったものです。命令に反し、本来できる仕事をわざわざ残業した場合はダメということです。
実際に残業がまったくない職場というのはほとんどないでしょう。ということは残業代の支払いはほぼすべての職場で発生しているとも言えます。会社としては法定労働時間を超えて労働をさせる場合には36協定を締結し、社員の労働時間をキチンと管理する。残業については会社としての指示、労働者からの申出といったルールを明確にし、その上で生じた残業手当は支払うことが求められます。
ちなみに未払いとなっている残業手当の請求ができる期間は2020年の民法改正に合わせて、2年を5年にするかどうかを厚生労働省の「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」で議論されています。まだ結論は出ていないようですが、今後は「過去5年間まで請求できる」ということになるかもしれません。もし残業代を支払っていないということであれば、早めの対応が求められます。